繰り返されるサンプリング
藤子不二雄に改めてハマった。
改めてというよりも小学校の頃に
ドラえもん・パーマン・オバケのQ太郎・忍者ハットリ君・キテレツ大百科といった漫画・アニメを通ってはいたものの細かい部分までは触れていなかった気がする。
自分と同世代くらいの若い人は
藤子F不二雄(以下 F先生)と藤子不二雄A(以下 A先生)どっちがどっちか区別がつかない人がいるかと思うが分かりやすく言うと
ドラえもん・パーマンの作者がF先生、忍者ハットリ君・怪物君の作者がA先生である。
ちなみにバッファロー吾郎の木村さんが数年前に芸名を「バッファロー吾郎A」に変えたのは藤子不二雄Aさんにあやかったからというのは一部のマニアの間では有名な話。
そもそもハマった理由は今年の冬に藤子F不二雄「異色短編集『気楽に殺ろうよ』」というF先生の短編集を買ったからである。
その名の通り、皆さんがイメージするあのドラえもんを生み出したF先生の作風からは大きくかけ離れている作品ばかりが収録されている。
中でも短編集のタイトルともなっている「気楽に殺ろうよ」という話を僕はオススメしたい。
この話の主人公は妻子持ちの中年のサラリーマン。
いつもと変わらぬある日の朝、体の激痛を訴えて目を覚ましたサラリーマン。
子どもに絵本を読んであげようとシンデレラのを読み聞かせていると最終ページには
王子様とお姫様が裸で抱き合おうとするイラストがあった。
そうこの作品は性欲と食欲の価値観が逆転し、性を非常にオープンに捉える世界に
なってしまっていた。反対に食事をとる行為が非常に恥ずかしいという事になっていて奥さんに「早く朝食を出してくれ」と怒る夫の元に
奥さんがすっ飛んできて「あなたご近所に聞こえるじゃないの!」と注意する場面もある。
この作品を読んでから少し経ったある日、録画だけしていてすっかり見るのを忘れていた松岡茉優・伊藤沙莉ダブル主演のドラマ
「そのおこだわり私にもくれよ」を何の気なしに見返した。
そのドラマの第5話の中で「追悼のざわめき」という映画を松岡・伊藤が斎藤工扮する映画好きの男性と一緒に家で見るシーンがあるのだが、映画を見終わっての感想で
松岡が上記の「気楽に殺ろうよ」を話に出しつつ映画の感想を述べている。
松岡茉優の類いまれなる演技力のせいもあってかまるでドラマの中の松岡茉優のセリフでなく、松岡茉優本人の率直な感想のように聞こえるのだ。
差別や強姦といった猟奇的な要素のある作風の「追悼のざわめき」を見てそのあまりな理不尽でナンセンスな作品と「気楽に殺ろうよ」を結び合わせたのかもしれない。
真実は分からないが、本人役でフェイクドキュメンタリーな
ドラマであっただけに上記のシーンのような「自分の本心を言う」といったシーンが所々にあったのかもしれない。
そう考えながらあのドラマを見返すとまた違った面白さが覗けるかもしれない。
もう1つ大きくハマった理由は
A先生の作品である「まんが道」にある。
これは大まかに言うと藤子F不二雄先生こと藤本弘と藤子不二雄Aこと我孫子素雄の
漫画家人生を振り返るノンフィクション漫画である。
所々多少フィクションは含むものの大まかな内容はほとんど事実である。
中学生のうちから漫画を描いていたこと、高校生の時に漫画の神様であり二人が大尊敬する手塚治虫の元を訪ねて富山から兵庫まで行ったこと。
2人の青春時代とも言える多くの漫画家が共同生活をしていた「トキワ荘時代」のこと。断片的には知っていたものの漫画を通して追体験をすることにより、
2人の歴史の奥深さ・漫画に対するあくなき探究心を垣間見ることが出来た。
この漫画の中で手塚治虫の元を訪れた2人は、手塚治虫のその圧倒的なまでの仕事量に自分たちの現在置を知る場面がある。
あの手塚治虫ですら何百・何千ページと漫画を描いているのに自分たちは2人で100ページ漫画を描いただけで地元で天狗になっていたことに腹が立ち、
2人はもっといい作品を生み出すために苦労して描いた漫画を
汽車の窓から投げ捨てる。
この非常に印象的なシーン、実は週刊少年ジャンプで連載されていた「バクマン。」という漫画の中でこのシーンをサンプリングしたシーンが出てくる。
主人公であるサイコーとシュージンの2人がよりステップアップするためにということで漫画の原稿を河原に捨てるのである。
そもそも「バクマン。」自体が「まんが道」を元にして生まれた作品であるため
初めからサンプリングなのである。「まんが道」がなかったら「バクマン。」も存在しなかったし、映画版の「バクマン。」もなかった。
散々、「いや、逆逆!」と世間的には言われていたサイコーとシュージンの配役は当時
気になったが実際に映画を見終わってみるとやはり面白い作品であった。
ドラマ・映画「モテキ」の監督である大根さんの演出によりサイコー&シュージンVSライバルの新妻エイジの毎週のアンケートバトルは殺陣やプロジェクションマッピングを駆使して非常に疾走感のあるスタイリッシュな仕上がりになっていた。
個人的に見吉香耶が映画に登場しなかったのは残念であったが(今思うと見吉香耶を実写で演じるとしたら何となく配役は松岡茉優っぽい)エンディングの仕掛けにも胸アツであったし、あまり可愛いと感じていなかった小松菜奈(キレイではあるが、映画「渇き」のイメージもあって可愛いという方には彼女の事を捉えていなかった)もこの映画を通して見ると可愛さ・可憐さが際立っていた。
佐藤健のガチガチの童貞キャラは「もうこれコントだ」と目線を少し下げると面白く感じれたりしたので今でもたまに見る事がある好きな作品の一つとなっている。
昔の優れた作品があるから今のコンテンツやエンターテイメントがさらに活性化している。
浅い知識だけで何かを批判するのはとても浅はかな事だと時折感じることがあるので
「温故知新」の心、初心忘れるべからずをいくら年を取っても教訓にしていきたい。
来週、火曜日にそんな藤子不二雄の故郷である富山に夜行バスを使って
一人旅に行ってきます。
フツーに超楽しみ。
今回の豆's Power Push
太陽 /Drop's